2022/06/17
中学生の頃に初めて行った甲子園球場に魅了され、野球が大好きになったフリーアナウンサーの市川いずみさん。阪神タイガースについてレポートするだけでなく、ピラティスのインストラクターとして春季キャンプやパーソナルトレーニングにも携わっている。そんな市川さんだからこそ知る、阪神とファームの楽しみ方とは――。
初めて行った甲子園の光景
中学1年生だった12歳の夏、父親に「高校野球を見に行かないか」と言われて甲子園球場に行ったのが野球にハマったきっかけです。そのときの景色は今でも鮮明に覚えていますね。
甲子園の階段を駆け上がって通路に出た瞬間、目に飛び込んでくる4万人以上の観衆。焼きそばや唐揚げの美味しそうな匂い。その日は暑くて湿度が高かったので、芝生の香りがすごくしました。まだ改修前の甲子園で、座席はオレンジ色でしたね。
2試合くらい見て帰ったんですけど、最初は横浜高校が勝った試合で、初めて聞いた校歌が横浜高校。控えのキャプテンが伝令に行くときにわざと転んだり、高校生なのにいろいろ考えながら野球をやっているんだなって思いました。当時の私からすると、カッコいいお兄ちゃんたちが野球をやっていてすごく魅力的に映ったんです。
その日から甲子園にはまり、京都の実家から電車で1時間半弱くらいかけて通うようになりました。私自身は中1からソフトボールを始めて、午前中に自分の練習が終わったら第4試合だけでも甲子園に見に行く。ノートに自分と同じポジションの選手の動きを書いて、次の日の練習でマネしました。プレーヤー目線でも見るようになり、どっぷりはまっていきましたね。
イケメン選手に夢中だった女子高生時代
タイガースを好きになったのは高校生の頃です。私が女子高生だった2003年と2005年はちょうど優勝した年で、金本知憲さんや現監督の矢野燿大さんも現役でした。
大阪にとってのタイガースは、報道視点で見ると天気予報みたいな感じです。「明日の天気は」と「昨日の阪神は」というのが同レベルで存在する。私が住んでいた京都は大阪ほどではなかったけれど、電車の中でユニフォームを着ているのは当たり前でした。街を歩いているだけで、「今日、阪神勝ったんだな」ってわかるくらいでしたね。私が通っていた女子校では、制服ではなくタイガースの優勝Tシャツを着ている子もいました(笑)。
当時のタイガースの選手たちは、私からすると、顔もカッコよくて本当に素敵なプロ野球選手というイメージでした。なかでも私が大好きだったのは、今、内野守備走塁コーチの藤本敦士さん。矢野さんもイケメンですし、ちょうど能見篤史さん(現オリックス)が大阪ガスから入団した後でした。女子高生にとってはそういったことも、好きになるのに大事な要素だと思います(笑)。
仕事でタイガースと関わるようになったのは、新卒で入社した山口朝日放送を退社してフリーになってからです。ラジオ中継のアシスタントに採用され、ファームの鳴尾浜球場に通う日々が始まりました。
初めて鳴尾浜に行ったときに思ったのが、今まで私が見ていたのはプロ野球のほんの一部だったということです。選手たちは一軍で輝ける時間のほうが短くて、華やかな場所で活躍するために多くの選手たちが“下の世界”でずっと努力しているんだなって知りました。
安藤優也の“最後”の記憶
ファームは若い選手が育つ場所でもあれば、一軍で長く活躍した選手がキャリアを終えていく場所でもあります。中堅以上の選手が鳴尾浜にいる姿を見ると、余計にすごく厳しい世界なんだなって感じました。
そうした意味で特に思い出深い一人が、現在ファームの投手コーチを務めている安藤優也さんです。私が女子高生の頃から見ている選手でした。
安藤さんは2017年限りで現役引退しましたが、最後の年はずっと鳴尾浜にいてよくお話を聞かせてもらいました。ちょうど浜地真澄投手と才木浩人投手が入団1年目で、「すごいのが入ってきた」と。ブルペンで隣で並んで投げた後、「あいつらのボールを見ていると、自分はもう引退かなと思うわ」と言っていたのがすごく印象に残っています。安藤さんは腰が悪くて、治療で結構遠くまで行かれるというお話も聞いていました。
性格的にもすごくいい方で、鳴尾浜でお話しできるのはうれしいけれど、複雑な気持ちもありました。もう1回、上で投げてほしいなって。安藤さんはタイガースが強い時代に輝いていた投手ですから。
私は一軍の試合にも結構出入りしていて、そういう話を振ると「上の試合は全然見いひん」と言うんです。自分がそこにいない悔しさもあったのでしょうね。プロ野球選手がユニフォームを脱ぐときは、こうやって終わっていくのかなって思いました。
自分がファンだった頃は、選手がキャリアを終えていく姿を見ることはありませんでした。なかにはファンに知られずに終わっていく選手もいます。すごい成績を残した人はセレモニーをして終わるけれど、それでもキャリアを終える手前の段階は目にしないじゃないですか。
安藤さんは、私がそれを初めてちゃんと見た人かもしれません。選手の最後に触れられて、プロ野球の奥深さをまた一つ知ることができました。
野球の“全部”を見てほしい
私は2015年からタイガースを取材するようになり、甲子園より鳴尾浜にいる時間のほうが多かったですね。ファームならではの魅力を挙げるなら、“全部”が見えることです。
一軍の試合は球場の開場時間も決まっていて、ホームチームのバッティング練習など“見えない部分”がすごく多いと思います。でも、鳴尾浜ではそれを見ることができます。コロナ禍の今は状況が変わっているかもしれませんが、私が通っていた頃はすべての時間帯でファンが入れました。
特に見てほしいのが、試合前と後の練習です。ゲーム前にどんな練習をして、試合に臨んだのか。試合が終わったら、どんな練習をしているのか。取り組んでいる内容を見ていると、「今日、確かに試合であんなプレーがあったもんな」と感じることができます。「あのコーチと話しながら取り組んでいるな」とか、ファームは全部が見えるんです。
特に阪神は今、内野手が外野に挑戦することも多くあります。熊谷敬宥選手、植田海選手、原口文仁選手は鳴尾浜で外野の練習をしていました。植田選手はプロに入ってからスイッチヒッターにも挑戦しています。
「あれ? この選手、今、外野を練習している。ひょっとしてこのまま試合に出るのかな」とか、ちょっと先取りできる感もあります。そういうお得感もファームならではの魅力なので、ぜひ“全部”を見てほしいですね。
インタビュー/構成:中島大輔 企画:This、スカパー!