2022/07/29
8歳の頃に父親に初めて横浜スタジアムに連れられて行き、「綺麗」な光景に惹かれて大洋ファンになったライターの村瀬秀信さん。現在は横浜DeNAベイスターズの公式メディアに球団愛あふれる名文を寄せるなど、多方面で活躍中だ。後編では、そんな村瀬さんにベイスターズやファームの“愛で方”を聞いた。
佐々木朗希の完全試合に驚愕し、気づいたら……
僕は今、小園健太が楽しみで楽しみでしょうがないんですよ。
佐々木朗希(ロッテ)が4月10日のオリックス戦で完全試合をして「すげえ!」と思っていたら……その日の夜にはもう小園のことしか考えられなくなっていました。
佐々木朗希すげえ! →キャッチャーの松川虎生は高卒1年目から165km/hの球を普通に捕ってリードしていてすげえ! →市立和歌山高校時代に小園の球を捕っていたから松川はそんなことができるんだ。 →小園がすげえ!
そうやって、小園のことしか考えられなくなったんです。
今、ベイスターズファンはみんな、小園を愛でていますよ。1998年のドラフトで「ベイスターズに行きたい」と言った横浜高校の松坂大輔は結局来なかったけど、そのときから続いていたモヤモヤがようやく晴れました。横浜で初めて“生まれながらのエース”が誕生するようなものですよ! 今、ベイスターズファンはみんなして「大きくなあれ」「元気に育て」と横須賀の練習場で小園の成長を覗き込んでいると思います。
元主力たちの“腐らない姿”
ここ数年のベイスターズのファームは、実績ある選手たちの“復帰の場”みたいになっています。例えば去年は、トミー・ジョン手術(肘の内側側副靱帯再建術)から田中健二朗が復帰しました。今年は一軍で活躍していますね。
アレックス・ラミレス監督の頃の後半は、一軍で活躍した選手がどんどん下に落とされました。桑原将志、倉本寿彦、戸柱恭孝、巨人にFAで移籍した梶谷隆幸にもそういう時期がありましたね。
一軍で使われていた選手が下に落とされて、腐らずにやっている姿はグッとくるものがあります。言いたいこともあるだろうに、文句も言わずに黙々と自分がやるべきことをやっている。普通の人にはなかなかできないですよ。でも、プロ野球選手は腐ったら終わりですからね。
勝負の年に、まさかの事態に
今年で言うと、倉本がそういう状態です。でも相変わらず、二軍でも最後まで残って室内練習場で打っていますよ。
倉本は2017年にショートで143試合にフルイニング出場した後、翌年には大和がFAで加入したこともあってセカンドやサードに回りました。2019年には打率.121と不振で24試合に出場を減らします。
それが2020年には82試合で打率.276と復活し、去年はレギュラー獲りの足固めをする最後のチャンスでした。2019年にドラフト1位でショートの森敬斗を獲得し、台頭してくることは間違いなかったですからね。
ところが、倉本はそんなタイミングでケガをします。2021年5月9日の阪神戦で初回に一塁にヘッドスライディングして負傷し、左手薬指の第二関節脱臼及び中節骨剥離骨折と診断されました。しかも「危ない」とされる一塁へのヘッドスライディングでアウトになったから、ネットには批判的な声もありましたね。
「もう怖くてヘッドスライディングできないです……」
倉本自身もそう言っていました。それまでは体の反応でヘッドスライディングが出ていたのが、ケガがよぎるようになったそうです。それくらい倉本にとって3カ月の戦線離脱は響いた。もし次にヘッドスライディングして同じことになったら、“死刑宣告”みたいなものですから。
「俺も頑張らなきゃな」
そう思っていたら今年の5月8日、広島戦。0対15の場面で6回、先頭打者でボテボテのサードゴロを打ったときに一塁にヘッドスライディングしたんですよ。
うわっ! 率直にそう思いました。こんなにリードされて意味のなさそうな打席でも、彼らは命懸けでやっているんだなって。これでダメになっても、たぶん悔いがないからヘッドスライディングしているんだろうなって思って。
それを見たときに僕は、勝ち負けなんかより尊いものを見たと感じました。「俺も頑張らなきゃな」っていう気持ちになりますよね。仕事はどんなときでも流さないでやらないといけないですよね。
どれだけの人が、それだけの気持ちで日々やっているのか。本当に生き残ろうと思ってやっているか。そういう部分が見えたら、倉本をバカにすることなんてできないですよ。
一軍も二軍も同じプロ野球の舞台――そんな目線で僕は見ているのかもしれません。特に今のベイスターズの場合、一軍と二軍の差がそこまで大きくないですしね(苦笑)。
実際、選手が急遽出てくる場合もあります。現に今、森がショートのレギュラーをとりかけていますからね。
ベイスターズを長く見て感じる面白さ
「今年は全員そろった」
今季開幕前、僕はオフィシャルイヤーマガジンの原稿でそんな書き出しをしました。コーチとして石井琢朗、斎藤隆、鈴木尚典が帰ってきて「全員そろった」と思ったら、タイラー・オースティンが離脱し、今永昇太が離脱し、森も離脱し……。
蓋を開けてみたら、みんないなくなりました。アガサ・クリスティかというくらい、『そして誰もいなくなった』。
でも、今永は5月に復帰してから先発ローテーションを守り、森は6月に一軍昇格してレギュラーを獲りかけています。オースティンは4月に右肘の手術を受けて、6月にファームで実戦復帰。彼は人としても素晴らしくて、横須賀で愛想よくやっているという話です。横須賀は“放牧場”として最高ですよ。綺麗ですしね。選手を愛でるにはいい場所だと思います。
京浜急行の追浜駅からファームの拠点「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」に行く間の商店街は一時期すごく寂れていたけど、タワーマンションができてから結構人が入ってきて、また賑やかになってきました。ベイスターズを長く見ていると、そんなところにも面白さを感じるようになりましたね。野球にはいろんな見方があるので、一軍だけでなく、ファームのいろんなところを楽しんでください。
インタビュー/構成:中島大輔 企画:This、スカパー!