ファームのススメ

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【後編】ダルビッシュ有、大谷翔平に続く次世代スターを「育成」。ファイターズが鎌ケ谷で築くファームの“存在価値”(DJチャス。/球団職員)

2022/08/26

©HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS

 2014年から「DJチャス。」というキャラクターに扮し、北海道日本ハムファイターズのファーム本拠地・鎌ケ谷を独特の演出で盛り上げている球団職員の中原信広さん。1990年に入社したときから広報として働き、数々の選手がスターになり羽ばたく様子を見守ってきた。後編では、長らくファイターズで働く中原さんだからこそ知る、ファームから連綿と続く選手やチームの“成長物語”の裏側を聞いた。

「育成」球団の信念

 ファイターズは球団のコンセプトとして「育成」を掲げています。かつてのダルビッシュ有や大谷翔平を筆頭に、鎌ケ谷からスター選手がどんどん巣立っていきました。それだけ選手たちが台頭していく様子を見ていると、鎌ケ谷の存在意義はすごいなって思いますね。

 鎌ケ谷スタジアムはファンの皆さんに楽しんでもらう場所ですが、選手はお客さんに見てもらって初めて成長できます。選手は鎌ケ谷で見られながら試合をやって、プロとしての感覚を知らぬ間にどんどん吸収している。そうした場であるのはこちらとしてもうれしいことですね。

 もちろんボールパークを成功させたいという気持ちはありますが、その先に、お客さんに見られることによって選手が成長していく。そこの信念だけはブレずに持ち続けてやっています。

小笠原と新庄が持つ、“目線”の違い

 僕は1990年にファイターズに入社し、長らく広報を務めました。一軍に帯同してチームを見続けながら、「この選手は出てくる」と思ったのが小笠原道大です。

 なぜかと言うと、僕が1998年に落合博満さんの専属広報を務めていたときのことです。落合さんは人前でそれほど練習している姿を見せないことが知られていますが、多くの選手たちは「いいよね、落合さんは。俺なんて、毎日厳しい練習ですよ」みたいに言っていたけれど、小笠原だけは見方が違っていたんです。「いや、違いますよ。あれはパフォーマンスですよ。あれほどの選手は、人が見ていないところで絶対に毎日やっていますよ」と話していて、この選手は目の付け所が違うなと感じました。

 今年から一軍の監督を務めているBIGBOSSもそうです。2004年にファイターズへ入団した際、僕は広報を務めていました。

 前年秋、「メジャーリーグから加入するから記者会見を開いてくれ」と球団に言われて、新庄剛志という選手がどういう人かを知るために裏で話を聞きました。

「新庄さんは日本球界に復帰して、ご自身の目標は打率3割ですか。ホームラン30本ですか。それとも30盗塁ですか?」

 僕はありきたりな質問をしてしまいました。すると、「いや、僕はこれです」と指を4本出したんです。

「4割、40本、40盗塁?」と聞いたら、「いやいや、違います。札幌ドームの試合にファンを4万人集めたいです」って。とにかく北海道を元気にしたいと言うんです。

 普通の選手なら「30本を打ってホームラン王を狙います」とか自分の成績のことを言うけれど、そうやって発言できるのはすごいですよね。ファンの目線を意識した優等生発言ではないですよ。僕が裏側で聞いたことですから。もうこういう選手は出てこないだろうというくらい、人としての大きさを感じました。今でも変わらないですけど(笑)。

“全員一軍、全員ファーム”の選手たち

 メジャーでスーパースターになった大谷を含め、僕は鎌ケ谷で多くの選手を見てきました。自分の中では“全員一軍、全員ファーム”の選手だと思っています。

 その中でベタで言えば、特にスターになる要素を持っている選手は野村佑希、万波中正、清宮幸太郎の3人ですね。今後どこまで羽ばたいていけるかは、目覚めるか、目覚めないかの話です。

 個人的に面白いと感じているのが、ルーキーの達孝太と畔柳亨丞。達の場合、身長194cmと大きいこともあって雰囲気がダルビッシュや大谷となんとなくダブります。畔柳は180cmで、度胸があってどんどんバッターに向かっていく。昔の武田久みたいですね。ワンスパイスかけると、ものすごいピッチャーになるのではと楽しみにしています。

 個人的なことで言えば、気にしているのは出身地・大分の後輩である田中瑛斗と母校・明治大学の後輩の上原健太。完全に主観になりますが、この2人には羽ばたいてほしいと思っています。

 長らくチームを見ていて思うのが、プロ野球で光ることができるのは与えられた役柄で輝ける人だということです。映画やドラマと同じように、プロ野球にもいろんな役柄があります。先発ピッチャーがいれば、中継ぎや抑えがいて、バッターでは1番から9番があった上で、代打の切り札がいたり、ベンチウォーマーもいたりする。

 その中で、与えられた役柄で輝ける人は一番強いですよ。任された場所で光ることができれば、また今度、次の役柄が来るわけですからね。

 選手たちに対して思うのは、自分自身の“映画”の主人公になってくださいということです。一軍の広報をやっている頃から、鎌ケ谷で勤務している今まで常にそう思っています。

ダルビッシュと大谷というスーパースターが巣立っていった鎌スタ。次はどんな選手がここから生まれてくるのか? ©HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS

鎌スタ「第2章」の始まり

 ファイターズは2023年シーズンからエスコンフィールドHOKKAIDOに一軍の本拠地を移します。北海道から離れた鎌ケ谷でファームは独自路線を歩んできましたが、今後は球団全体にどういう貢献ができるのか、もっと大きなものを動かしていく時代になると思います。

 コロナ禍ではさまざまな制限もあり、去年まではとにかく少しずつでも鎌スタの魅力を取り戻そうと追われたがあまり、“どうしたい”っていう形がなかなか見えてきませんでした。ただし、今年は違います。取り戻すのではなく、新しいことを始めようと動いています。

 例えば、ファンによるヒーローインタビューが復活しました。グラウンドに降りてインタビューをしてもらっていたのがコロナ禍ではできなくなったけれど、スタンドからマイクを持てばヒーローインタビューをできるのではないかとなりました。ファンと選手との“物理的距離”が遠くなってしまいましたが、メッセージボードをつくればベンチに飾って届けることもできる、と。

 コロナ禍の2年間がすぎてふと思ったのは、新しい鎌スタをもう1回つくり上げようということです。第2章の始まりです。

 ファンの皆さんと我々で一緒に楽しめるボールパークを鎌ケ谷につくっていくので、ふらっと遊びに来てください。「DJチャス。」として表に出ている僕でさえ、何が起こるかわからないドラマが鎌スタには詰まっています(笑)。逆に来てみないと、どんなドラマが起きるかわからないことが魅力かもしれないですね。

インタビュー/構成:中島大輔 企画:This、スカパー!

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